野いちご源氏物語 一六 関屋(せきや)
そうこうしているうちに、空蝉(うつせみ)(きみ)の夫は年老いて弱ってしまったの。
まだ若い後妻(ごさい)の将来を心配して、息子たちに、
継母(ままはは)だからといって軽んじてはならぬ。何もかもあの人のおっしゃるとおりにいたせ。私が生きていたときと同じように、大切にお仕えするのだ」
と、朝も晩も繰り返し繰り返し言っていた。

空蝉の君は、
<なんというつらい運命だろう。両親を早くに亡くしたために、入内(じゅだい)の予定は消えて年老いた地方長官の後妻などになってしまった。しかもその夫にさえ置いていかれて、私はこの先どうなってしまうのだろう>
(なげ)いている。
(さきの)常陸(ひたち)(すけ)はその様子を見て、
寿命(じゅみょう)はどうしようもないが、私の(たましい)だけでもこの人の近くに残していきたい。息子たちは今は神妙(しんみょう)な顔をしているが、本心(ほんしん)はあてにならぬ>
と悲しむのだけれど、結局ははかなく亡くなってしまった。

しばらくは息子たちも、
父君(ちちぎみ)のご遺言(ゆいごん)だから」
と空蝉の君をそれなりに大切にしていたわ。
でも、継母と継子(ままこ)はうまくいかないのがふつうなのよね。
女君(おんなぎみ)は、
<私の運命のせいだ>
と嘆いて暮らしていた。

そんな息子たちのなかに、ひとりだけ女君に優しい態度をとった人がいたの。
でもその人は、あわよくば継母を自分のものにしたいと思っていた。
「父君があれほどあなたを心配なさっていたのです。たいした身分でもない私ですが、どうぞうっとうしがらず何でもおっしゃってください」
忠実(ちゅうじつ)そうな顔で近づいてきたかと思えば、そのまま女君を口説きはじめる。

女君はもううんざりしてしまう。
<どこまで(のろ)われた運命なのだ。生きつづけていると、このような嫌な思いまでしなくてはならないのか>
絶望(ぜつぼう)して、誰にも相談せず(あま)になってしまったの。
周囲の人たちは、
「何もそこまでなさらなくても」
と嘆く。
最大の原因となった息子は、
「そのような逃げ方をなさるほど私がお嫌いか。まだお若いというのに、これからどうやって暮らしていかれるおつもりなのだろう」
嫌味(いやみ)を言っていたわ。
(うつわ)の小さい男だこと。
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