偽装婚約しませんか!?
 席を立ったローレンスが右手を差し出す。
 この偽装婚約は、彼の人生がかかっている。誰かを騙すことはよくないが、人としての尊厳を損なう危険を回避するためなら話は別だ。
 秘密の共犯者として、ヴィオラは彼の手に自分の小さい手を重ね合わせた。

 ◇◆◇

 さらに翌日。
 食堂のテラス席での昼食に誘われていたヴィオラは、生徒や教師の衆目を集める中、淑女らしい微笑みを貼り付けてローレンスに近づいた。周囲は遠巻きに見ているだけで会話が聞き取れる距離ではないが、王族に対して不敬と取られる発言には注意しなければならない。
 一歩引いた感じで、エレガントに。

「殿下、本日はお日柄もよく……」
「ヴィオラ。俺のことはローレンスと呼んでくれ、とお願いしただろう?」
「失礼しました、ローレンスさま。太陽の光を浴びて輝く御髪は、まるで天から遣わされた神々のよう……」
「そういう世辞は今後は一切不要だ。仲のいい友達感覚で喋ってくれて構わない」
「え? ですが」
「むやみやたらに飾り立てる言葉は聞き飽きている。頼むから普通にしてくれ」

 真顔で願われたら、首を横に振るわけにもいくまい。
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