偽装婚約しませんか!?
 この婚約は解消されなければならない。赤の他人に戻るだけ。難しくはない。だって、最初にそういう取り決めをしていたのだから。
 ならば、他の女子生徒と同じように彼を殿下と呼ぶのは何らおかしくない。そのはずだ。けれど、正しいことをしたはずなのに、なぜか胸が締めつけられるように息が詰まる。偽装婚約中、じっと見つめられるのは慣れていたはずなのに心拍数が上がる。視線が痛い。
 ヴィオラは浅い呼吸を繰り返しつつ、口を開けた。

「…………わ、わわわたくしは! 教養も機転も人脈も足りていなくて、とてもお妃様なんて務まりません。殿下には他にもっとふさわしい方がいます……! 決意を固めたわたくしの心をもてあそぶような言動はお控えください」
「そんな寂しいことを言わないでくれ。ヴィオラ、俺は君じゃなければ意味がないんだ。君をこんなにも愛しく思っている。この想いを消せと言われても、もう無理だよ。お願いだ、君はただ頷くだけでいい。教養はこれから身に付ければいい。機転はそういうのが上手な者に手ほどきを受けたらいい。人脈は一緒に築き上げていこう」

 優しい声音はするりと心の中に染み渡っていく。
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