新選組に拾われました☆
沖田の部屋の中。

朝日が差し込み、畳の上には黒髪の少女――かつて黒猫だった六花が座っていた。
琥珀色の瞳をぱちくりとさせながら、手や尻尾を確認している。

「……ふぅん、やっぱり君、猫耳ついてるんだねぇ。」

沖田は興味深そうに六花の耳を触る。
ふにふにと指先で揉むと、六花はびくっと体を震わせた。

「ひゃっ!? ちょ、ちょっと何するの!?」

「猫耳を触るのは、当然のことじゃない?」

「当然じゃないから!?」

六花は頬を膨らませ、ぷいっと顔を背ける。
そんなやり取りをしていると――

「おい、総司! 朝から騒がしいが……」

バンッ!

突然、勢いよく襖が開いた。
そこには、土方歳三が腕を組んで立っていた。

「何やってんだ、お前は……って――」

土方の視線が、六花へと移る。

「……は?」

彼の眉がピクリと動いた。

「……誰だ、お前?」

鋭い声に、六花はびくっと肩をすくめる。

「……えっと、六花?」

「……六花?」

土方の表情が一瞬止まり、そしてゆっくりと沖田を見た。

「総司。……お前、またどっかから妙な娘拾ってきたのか?」

「んーん、違いますよぉ。」

沖田はにこりと笑い、六花の頭をぽんぽんと叩く。

「この子、昨日まで猫だった六花です。」

沈黙。

土方の表情が一瞬固まり、口が僅かに開いた。

「…………は?」

「だから、この子は僕の飼い猫の六花。なんか今朝起きたら、人になってたんですよねぇ。」

「………………。」

土方は目を見開いたまま、六花と沖田を交互に見つめる。

「…………んなワケあるか、バカ。」

「でも、本当のことですし?」

「はぁ!?」

土方が思わず声を荒げたその時、さらに奥から声がした。

「おーい沖田ぁ、なんか土方さんが怒鳴ってるけど……って、あれ?」

藤堂平助と斎藤一がひょこっと顔を出す。

「ん? ……誰、この子?」

藤堂が不思議そうに六花を見つめると、沖田は嬉しそうに手を叩いた。

「おお、ちょうどいいところに! ねぇ平助、これ誰だと思います?」

「え? ……知らない子だけど?」

「正解は~~! 僕の飼い猫だった六花ちゃんでした~~!」

「は?」

またも沈黙。

「いや、いやいや、ちょっと待てよ総司!?」

藤堂は慌てて沖田の肩を掴んだ。

「猫が人になるなんてあるワケないだろ!? なんかの冗談だろ!?」

「ううん、本当に六花だよねぇ?」

沖田が六花に向かって微笑むと、六花は困惑しつつも頷いた。

「う、うん……昨日まで猫だったのは本当……?」

「………………。」

藤堂、斎藤、そして土方が、揃って六花をまじまじと見つめる。

「……マジかよ。」

藤堂が呟くと、斎藤は腕を組んで静かに言った。

「……総司がこんな悪ふざけをするとも思えんし……だが、信じがたい話だな。」

「俺は絶対信じねぇぞ。」

土方がピシャリと言い放つ。

「そもそもそんな怪談みてぇな話があるか!」

「えぇー? でも、目の前にいるじゃないですかぁ。」

「黙れ!」

土方はこめかみを押さえながら、六花をじろりと睨む。

「……じゃあ聞くがな、お前、どうして猫から人になった?」

「え……えっと……分かんない……」

「……ほら見ろ! こんな得体の知れねぇもん、屯所に置けるか!」

「えー、でも、もう飼ってますよ?」

「人は飼うもんじゃねぇ!!」

土方の怒鳴り声が響き渡る。

「……まぁまぁ土方さん。」

近藤勇が、のんびりとした調子で部屋に入ってきた。

「何やら騒がしいと思ったら……おや、可愛らしい娘さんだな!」

「……局長までこんなノリかよ。」

土方は頭を抱えるが、近藤は笑って六花の肩をぽんぽんと叩いた。

「まぁ、何かの縁だろう。細かいことはさておき、とりあえず飯でも食おう!」

「いやいやいやいや!! 何が ‘さておき’ だよ!!」

「じゃあ、土方さんが責任持って六花ちゃんのこと調べます?」

沖田の言葉に、土方はぴたりと動きを止めた。

「……ちっ……面倒くせぇ……。」

「じゃあ決まりですねぇ。」

沖田は満足げに微笑んだ。

こうして、黒猫から人へと姿を変えた六花は、新選組の一員(?)として迎え入れられることになった。

――もちろん、この事実に驚かされる隊士たちが、これからまだまだ続出することになるのだが。
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