『可愛い君へ』
朝霞は営業一課と二課を取りまとめる営業部長である。
仕事に厳しく、部下からは「鬼の朝霞」と陰で呼ばれている。
背丈があり、すっきりとした目元に意思の強そうな眉のイケメンで、女子社員からの人気は高い。
その私生活はミステリアスで、独身というのは確かだが、特定の彼女がいるのかどうかもわからない。
数人の強者女子社員が告白したものの、全員が花を散らしている。
花苗もひそかに真面目で仕事が出来る寡黙な朝霞のことを、尊敬し憧れていた。
けれど、私語を話したことは皆無だし、仕事の件で取り次いでも「ああ」か「わかった」しか言われない。
ただ一応「ありがとう」の一言は添えてくれる。
花苗のことなどきっと朝霞は認識さえしていないのかもしれず、花苗にとっては遠い存在だった。