『可愛い君へ』

朝霞は営業一課と二課を取りまとめる営業部長である。

仕事に厳しく、部下からは「鬼の朝霞」と陰で呼ばれている。

背丈があり、すっきりとした目元に意思の強そうな眉のイケメンで、女子社員からの人気は高い。

その私生活はミステリアスで、独身というのは確かだが、特定の彼女がいるのかどうかもわからない。

数人の強者女子社員が告白したものの、全員が花を散らしている。

花苗もひそかに真面目で仕事が出来る寡黙な朝霞のことを、尊敬し憧れていた。

けれど、私語を話したことは皆無だし、仕事の件で取り次いでも「ああ」か「わかった」しか言われない。

ただ一応「ありがとう」の一言は添えてくれる。

花苗のことなどきっと朝霞は認識さえしていないのかもしれず、花苗にとっては遠い存在だった。

< 7 / 31 >

この作品をシェア

pagetop