隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
 一通りの支度を終え一息ついて前を見る。そうすると自然と自分の視界に入る彼女の後ろ姿。綺麗に毛先だけカールされている艶のある髪の毛と細い肩。後ろ姿だけでも彼女の美しさというものは滲み出てしまっている。

 そういえば、あまり一人でいるところを見かけたことがない。彼女は少し俯き加減で、手元に何かを持っているようだった。俺はスマホでもいじっているんだろうと思ったが、少し首を傾げて彼女の手元を見ようとする。周りから怪しまれない程度に顔を少し前に出したところでようやく手元が見えた。彼女が手に持っているのは分厚い文庫本だった。

 斉木さんはただひたすら熱心にその文庫本を読んでいた。

(読書家なのかな)

 そう思ってぼんやりその姿を後ろから眺めていると女子が何人か教室に入って来、斉木さんの存在を確認すると声を上げて彼女に近づいた。
 
「里香ちゃん!」

 その声を聞くと同時に斉木さんはハッと素早く顔を上げ、持っていた文庫本を机の下の棚部にさっとしまった。

「わ!同じ講義とってたんだ!来た時知ってる人誰もいなかったから不安だったんだー。よかったぁ」

「私も里香ちゃんいてよかったぁ。隣空いてる?」

「うん、もちろん。どうぞ」

 そう言って自席の隣に置いていた荷物をどかし、斉木さんの周りはあっという間に女子だらけになった。そこに杉本さんの姿はなかった。

 それから教授が来るまでの間、その女子集団はきゃっきゃとした雰囲気で会話を楽しみ、その中でもみんなの憧れ「斉木里香」は一際目立って輝いていた。まるで、口を真一文字に結んで難しい顔をしていた人とは別人のように。
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