隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
 まさかの質問返し。しかも、そっと目を合わせてみるとさっきの表情から一転、目にきらきらとした輝きが宿っている。

「…え、いや、どうかな。最近あんまり読まないかも。つい他のことに誘惑されちゃって」

「ということは、前は読んでたってことだよね?なんでトルストイの短編読もうと思ったの?」

「あ、えーと…高校の頃、テレビで紹介されてるの見てそれきっかけで…」

「もしかしてもともとロシア文学好きだったりする?ドストエフスキーも読む?あっそれとも外国文学全般いけちゃうかんじ?」

 ───事態が飲み込めない。どうして斉木さんはこんなに楽しそうにぐいぐい自分に迫りながら矢継ぎ早に質問攻めにしてくるのか。さっきの小難しい表情と重苦しい雰囲気は一体どこへ飛んでいってしまったのか。

「え、ええっと…」

 なんて口籠もっていると斉木さんはじれったいような表情をし、待ちきれないとばかりにさらに話を続けた。

「『戦争と平和』もぜひ読んでみて!こんなに分厚いのがなんと6巻もあってwikiによると登場人物は559人!私も正直読めるかなって不安だったんだけど前にBBCが制作した同作品の映画を観てすっごく面白くて、その映画のおかげで話の内容掴んで主要人物も把握してるから意外とすらすら読めちゃって!とにかくね、ナターシャって女の子が可憐で清らかで、でも純粋が故に失敗しちゃうこともあって読んでて胸が痛むの。この子に限らず登場人物全員が、何かしらか人間的に欠損しててそれがやけにリアルで生々しくってどのキャラクターも愛おしいんだぁ…」

 両手を重ねて胸に当て、恍惚とした表情を浮かべる斉木さんはとっても美しかったけど、自分の知っている「斉木さんの美しさ」とは何かが違っていた。
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