隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
「…斉木さんって、本読むのが本当に好きなんだね」
しばらくの間を置いて発した俺のその言葉に、斉木さんはハッとして固まった。
と同時に、斉木さんの顔はみるみるうちに耳まで真っ赤に染め上がった。
「えと、えーと……」
高身長なはずの斉木さんが一気に小さくなった気がする。しゅるしゅるしゅると音を立てて縮んだように見えた真っ赤な斉木さんはゆでだこのようだ。
「…ごっ、ごめんなさい…!!」
片手で自身の真っ赤な顔を恥ずかしそうに隠し、もう片方の手はぷるぷると震えながらも素早く俺の手から文庫本を抜き取る。と同時に逃げるようにして教室を走って出て行った。
「…」
今度はその様子を呆然と見守るしかできなかった俺の顔が、今真っ赤に染め上がる。
「待て待て待て…」
足の力が抜けていく。その場に小さく蹲る。「戦争と平和」について熱く語る斉木さんの声が耳の奥でずっとこだまする。
明るく笑う華やかな美人。たまに鑑賞するだけで充分だと思っていた美人。初めて見た時に軽く衝撃を受けるほどのオーラを纏った美人。
「ただの美人」と思っていた。お近付きになりたいなんて1ミリでも考えること自体が烏滸がましいと思っていた。
───彼女は言った。
”大野くん、本読むの?”