隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。

消える

「お、プレゼミ斉木さんも一緒じゃん!」

 男同士のつまらない会話が一転、一緒に教室まで歩を運んでいた友達の声色があからさまに黄色くなる。
 
 廊下から視認したその人影は、近くにいる女の子たちに向けて明るい笑顔を作り、女子同士の会話に花を咲かせながら開講を待っていた。


───大学に入学して1年が経過した二年次の春。俺、大野(おおの)陽斗(はると)は単位をぎりぎり落とさない程度に学業に励み、居酒屋で深夜までバイトをし、飲み会しかしていないテニスサークルに所属し、大学内外の女の子と付き合ったり別れたりを繰り返して。都内の一応、有名私大と言われるこの大学で、所謂典型的大学生ライフを送っていた。

 どちらかというと合理的に物事を考えて省エネ且つ効率的に物事を進めて今までの人生を送ってきた俺は、たぶん器用なタイプなんだと思う。極力無謀なことには手を出さないし、博愛主義ではないけど平和主義者であり、つまらない諍いなど起これば喜んで一番に白旗を上げる。

 「結構ドライだよね」と周りの友達や付き合ってきた女の子たちから言われることもある。でもこれでも俺の精一杯、誠心誠意自分の人生や他人と向き合ってきたつもりだ。大学進学をきっかけに田舎から上京してきた俺は、東京という街の気楽さ、寛容さ、そしてある種の冷たさに救われながら生活している。気がする。

 それでも一応は将来のことを真面目に意識してみたり、なんとなく学業に力入れてますよと静かなるアピールをしてみたりという目的で、決して強制ではない、意識を高くもった人だけが希望して所属する、学科のプレゼミに参加することにした。

 正直プレゼミの研究が就職活動に役立つとは思えないし、文系学科である以上、学業より優先して力を入れなくてはいけない何かがあると思う。

 でも、ゼミ室で明るく笑う彼女の姿を目にしてほんの一縷、参加してよかったかも、なんて思ってしまう自分がいた。
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