隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
そして相変わらず目は合わないが、表情は穏やかで微かに震えていた声も落ち着いていたことに気づく。
「顔がこう、ぐっと険しくなるのも雄を意識してそうなるの?」
「えっ、そんな怖い顔してたの私…!」
まさかのこっちは無自覚だったらしい。これは相当な拗らせ具合だなと斉木さんのこれまでの心労を慮る。
あれ?でも…
「そういえば、彼氏に対しては大丈夫なの?」
思い出した。斉木さんには彼氏がいる。付き合うという経験があるなら拗らせるのも幾分解消されていそうなものではあるが。
「今はいないけど…。そうだね、前付き合っていた人に対してはそういうのなくなってたかもしれない…あれ?どうしてだろう…」
今は付き合っている人がいないという情報に少し心が明るくなる。まぁどう考えても手の届かない俺には関係のないところではあるが。
「1回解消できてたならさ、きっと大丈夫だよ。変に意識して強張ることも少しずつなくなっていくんじゃない」
「…ありがとう。大野くん、優しいね」
「斉木さんになら誰だって優しくするでしょ」
俺のその言葉に大きくぶんぶん首を振る斉木さんが動物みたいでかわいくて、軽く笑いが出てしまう。
「そういえば、俺の名前知ってるの意外だったな」
ぼうっと宙を見て独り言のようにそう呟くと、ぷっと小さく吹き出す声が聞こえた。
「なんで!同じ学科でしかもあんな小さなプレゼミも一緒で、菜月ちゃんも大野くんって呼んでるのに知らないわけないじゃん」
変なところでツボに入ったらしく、口元に手をあてて大野くんって面白いねって笑う。照れたり涙目になったり険しい顔になったり急に笑顔になったり。彼女の端正な顔立ちがころころと表情を変えて、その一つ一つが俺の心をぎゅっとさせていることに本人は全く気付いていないだろう。