隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
「斉木さんっておもしろい人だったんだね」
「あーっ、それってバカにしてるでしょ…」
尚も両手で顔を隠しながら、ちょっといじける彼女は子供のようだ。
「してないしてない。斉木さんの良さじゃん。変えないでほしいよ」
「…大野くんもずいぶんと変わってておもしろいと思うよ…」
どこでそう思うのか自分にはわからなかったが、俺は軽く笑って立ち上がる。
「とりあえず1巻読んだら報告しても良い?本にしても何にしても、誰かと同じもの共有するの楽しくて、俺好きなんだよね」
斉木さんはようやく手をどかし、目は合わさないままうんうんと何回も繰り返し頷いた。
「…私も好き。私も…報告していいですか…?」
「もちろんいいんだけど、なんで敬語なの」
笑ってつっこむと、斉木さんもふっと微笑んだ。俺は座席に置いてあったバッグを手に取り、まだ座ったままの斉木さんに向き直った。
「明日も2限が同じ講義だったよね。じゃあまた明日」
「あっ、うん。また」
近くのドアを開けて教室を出る。階段を降りる。講堂を出る。
「はぁ…」
あくまでも冷静に。
そう、相手はあの斉木里香だ。
誰もが「美人」と認める端麗すぎる容姿に、内面までも隙のない完璧さで身を固めた斉木里香。
「こんなの沼じゃん…」
無謀なことはしない、分不相応なことには手を出さない。そうやって今まで生きてきたのだ。
「知れば知るほどかわいいの出してくるの反則すぎなんだよ…」
ハイスペック美人のほんの僅かな欠点。いや、欠点ではなく寧ろ彼女の魅力をブーストさせる強力な武器だ。もちろん本人は気付いていない。
恋愛偏差値が低いが故に、見え隠れする無垢な幼さ。
もっと知りたい、もっと近付きたいという気持ちが波のように押し寄せてきて自分を飲み込みそうになる。
やめとけ、と自分にストップをかける声が遠くに聞こえては霞んでいく。もう一度自然と漏れ出た大きなため息は、重く重く感じられた。