隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
そして今日のプレゼミから、個人での研究活動に入っていくことになっている。今日はまず研究分野を決めて文献を探すところという段階だった。
紘と一緒に大学図書館に向かい、お互いの研究テーマについて話す。
「俺らちょっと分野離れてるな。俺多分こっちの書架だから向こう側で作業するな」
紘はそう言って、奥の書架へと進んでいった。自分も早速探していこうと歩を進める。
(えーと、自分は……たぶんこっちだろうな)
大体の目星をつけて巨大な書架の間をきょろきょろしながら進んでいく。
すると、
「あ、大野くん…?」
か細い声が聞こえてきてぱっと声の方を振り返る。
もう毎回お決まりのように、目が合ったと思ったらさっと目を伏せる斉木さんがそこに立っていた。
まさか斉木さんの方から声をかけてくるとは露とも思わず、緊張と嬉しさが混在する感情に脳みそが一瞬ショートしそうになった。
「斉木さんもここら辺?」
自分の気持ちを悟られないよう、あくまでも落ち着いて対応しようと努める。
「うん。たぶんこのあたり…」
「そうなんだ。ちなみにテーマどんな感じなの?」
「えっとね、帰国子女の日本語フォローアップみたいなところで書こうかなって」
「あ、ほんと?俺も似たような感じ。言語的マイノリティーのための支援みたいな」
じゃあやっぱりこの辺りの書架からいくつか漁ればいいかな〜なんて一人でぶつぶつ言いながらざっと図書を見渡す。
斉木さんも同じように辺りの図書を見渡して、いくつかを実際に取り出して中身を眺めてみたりしていた。
「あっこれ。これとか大野くんのテーマに近いんじゃない?」
斉木さんが、手に取った本をパラパラとめくりながら俺に見せてくる。
「ほんとだ、ありがとう」
斉木さんから本を受け取り、あることを思いつく。
「あのさ。もし、よかったらなんだけど」
「…うん?」
今までの自分だったら絶対こんなこと言わなかっただろうに。勝ち目のない勝負ごとは最初から乗らないタイプの人間だったはずなのに。
拒絶されるかもしれないリスクを背負いながら口を開く。