隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。

「あ、そういえばさ。毎週ブックレポート提出するじゃん。あれ、斉木さんのすっごい読みやすいよね」

 できれば伝えたいと思っていた。本当にすごいと思ったから。

「えっ、ほんと?そんな風に誉めてもらえるのとってもうれしいな…」

「うん。やっぱり本読んでる人の言葉っていいなって思ったし、きちんと受け手の視点で書けてるところとかすごいと思う。俺はちょっとあんなところまで書けないもん。それに刺激も受けたし自分ももっと頑張らないとなってモチベーション上がったりもしてさ」

 すらすらと何の気も無しにそこまで言い切れたのは、全てが偽りのない本心だから。

 でも、斉木さんからは何の反応もなくて。ちょっと心配になり斉木さんの顔を見て、俺はびっくりした。というのも、斉木さんが本当に嬉しそうな顔をしていたから。

「……っ私ね、大野くんと知り合えて本当に良かったって思ってるの。この間の話も親身になって聞いてくれて…」

「だから斉木さんの話だったらみんな親身になって聞いてくれるって」

 大袈裟に話す斉木さんがおもしろくて、軽く笑って流すつもりでいたのに。

「ううん、違うの、そうじゃないの。あの時本を持っててくれたのが大野くんで良かったなって」

 たぶん相当頑張って話をしているのだろう、机に置いた両手はぎゅっと拳が握られている。そうしてまで目を合わせて伝えてくれる斉木さんの誠意が嬉しくて。

 「あのっ、大野くん、本当にありがとうっ…」


 少しの恥ずかしさを携えた斉木さんの明るい笑顔が胸に刺さる。何とも言えずに今度はこっちが目を逸らしてしまう。

(こんなん無理だろ……)

 全てを独占したい。この笑顔が自分だけに向けられるものであればいいのに。

 俺はついにこの感情に”恋”という名前を付けざるを得ないようだった。
< 39 / 76 >

この作品をシェア

pagetop