隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
その気持ちをはっきりと自認すると、あとはもう行動しかなかった。俺が知っている斉木さんの情報はというと「本が好き」くらいのものだ。その「本」をとっかかりにどこかに出かける用事をつくろう。そう考えてスマホで”本好きのためのデートプラン”なるものを隅から隅まで検索して、あれでもないこれでもないと頭を抱えて、ようやくこれならどうだろうというものを見つけた。
「”本の祭典”……!」
それは、大型書店が開催する、様々な出版社が販促を目的にした本に関するイベントだった。たまたま開催日が今度の日曜日。こういうタイミングを逃してしまってはいけない、もう一人の自分が、そう自分に強く言い聞かせる。
なるべく下心が見えないように、「そういえばこんなのを見かけたんだけど」とあくまでもフランクな感じで…と緊張しながらフリックし、何度もLINEの文章を推敲し、意を決してイベントのURLと共に送信する。
「性に合わない……」
ベッドに大の字で寝転がり、「あとはもうどうにでもなれ」という調子でスマホを放り出して天井を見つめる。こんなに必死になって約束を取り付けようとしたり嫌われないように神経尖らせて振る舞ったり。ここまで何かに執着するなんてことなかったから、自分が自分でないような気がして少し不安にもなる。
が、予想もしていなかった即リプと前向きなスケジュール調整に、そんな不安も一瞬で消えてなくなった。
───そして、今日に至るのだった。
眠い目を擦りつつ、顔を洗い歯を磨き、身支度を整え始める。今まで女の子とデートなんて何回もしてきたはずなのに、今日はやたらと何回も鏡で自分の姿を確認してしまう。
「乙女かよ……」
自分で自分に呆れつつ、最後の最後の身だしなみチェックを終えて玄関のドアを開けた。