隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
日曜日の東京駅は異常な人混みだった。この駅を利用するのは帰省する時に新幹線に乗るため訪れるだけで正直、何の土地勘もない。時間に遅れないようにと早めに家を出たつもりだったが、巨大なターミナル駅でスムーズに改札外に出るのはなかなか大変だった。スーツケースをひいた団体旅行客の間をすり抜け、ようやく目的地の大型書店がある丸の内中央口の改札外に出る。
人混みから抜け出してふうっと一息ついて時計を見てみると、11時の待ち合わせまであと10分ある。書店の位置だけでも確認しておこうかと思って改札から一歩踏み出したとき、一際目をひくスタイルの美人が壁に添って立っていることに気づいた。
「…斉木さん、おはよ」
スマホをいじって俯いていた斉木さんは俺の声に気づくと顔を上げて恥ずかしそうに小さく微笑んだ。
「おはよう」
斉木さんは大学で見る様子とまた違っていた。というのも斉木さんはいつも割とゆるい格好をしている。ルーズデニムにシャツ1枚というのが決まったスタイルのようで、足元はいつもスニーカーだ。きっとそのラフさも彼女の魅力の一つなのだろう。だが、今日はというと、茶色の膝上丈のタイトスカートに白いレースのふんわりとした形のブラウスをインし、足元はローファーを履いていた。耳には小粒のきらっと光るピアスをし、巻かれた髪はゆるくポニーテールにされている。
気がつくと、周りを歩く人たちはみんな斉木さんをちらちらと見ている。そりゃそうだ。とても一般人とは思えない風貌に加えて透明感溢れる彼女の雰囲気も相まって、きらきらしたオーラがビシバシ放出されているのだから。
そんな彼女を目の前にすると「なんと無謀な挑戦をしているんだろうか」と正直怖気付いてしまう。でもそんな引け目を取っ払うような優しさで斉木さんは「誘ってくれてありがとう」と目を細めて笑う。無自覚なのか何なのか。俺の心をずるずると心地よい方へ引っ張っていく斉木さんには、とても敵いそうにない。
「来るの早いね。待たせてごめんね」
「ううん。私もちょうど今来たとこ。東京駅って慣れてないから早めに出たんだ」
同じ気持ちで早めに着いていたというのがなんだか嬉しくて、そしていじらしい。
「じゃあ早速行ってみよっか」
緩みそうな顔をぐっと引き締めて書店の方へと歩き出す。