隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。

「とっても楽しかった…!」

 書店の最上階を一通り見終えて、一人行動から合流すると斉木さんは満足げにそう言った。

「イベントもいっぱいあったし、本屋さんってこんな楽しいんだなって、俺ちょっとびっくりした」

「うん!それにイベントももちろん楽しかったんだけど普通に何もなくても楽しいね、ここの本屋さん!やっぱり大型書店は違うな〜」

 隣に並ぶ斉木さんの横顔をちらっと見ると満面の笑みで上機嫌な様子が伝わってくる。楽しいことは楽しい、そう素直に言葉でも表情でも表現する斉木さんは、やっぱり沼だ。


「あれ、今何時だろ」

 あまりに夢中で興味のある本を片っ端から読み漁っていたので、お互い時間の感覚を無くしていた。さっと斉木さんが腕時計を確認すると小さく驚いた。

「わ…もう2時だ」

「ほんと?お腹がすくわけだ…」

 本の世界から現実に戻ってくると急に襲ってくる空腹感。緊張して朝ごはんも食べていなかったのでさすがに何か口にしたい。

「あっ、あのね、ちょっとご飯食べられるとこ調べてきてて、インスタで見たとこなんだけど、そこ行ってみてもいい?」

 斉木さんの提案に驚き、即答でOKした。自分だけがこの日に向けて色々考えていたのかと思っていたが、斉木さんも予め行きたいところを探していたとは。この恋愛感情は一方通行なのだろうが、少なくともこの日に向けての気持ちが少しでも重なっていたことが心底嬉しい。

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