隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
そして、一緒にご飯を食べていると気付いたことがあった。斉木さんはきっととても素直な女の子なんだろうな、と。美味しいものを口にした時、どんなに緊張していても口元が勝手に綻び「ん〜…!」と言葉にならない喜びを表現する。男性を過剰に意識して強張ってしまうのも素直が故の反応なのだろう。
その時ふと、以前付き合っていたという彼氏の存在が気になった。その彼氏はこんな斉木さんを独り占めしていたのだろうか。紘曰く”強気で自信家で俺様”(あくまでも勝手な紘の予想)な彼氏。自分の中にふっと黒い感情が芽生えるのが分かった。
「大野くん、どうかした…?」
食後のコーヒーが運ばれ、遠い目をして砂糖とミルクをかき混ぜる俺に気付いた斉木さんが、心配そうに声をかける。
「あ、いやごめん。なんでもない。ちょっと一瞬考え事してただけ」
繕った笑顔で対応すると、斉木さんも「そっか」と納得して安堵した表情を見せる。
前の彼氏はあくまでも過去の話だ。張り合ったって意味がない。すれ違いや何かの相違があって決別という選択をしているのであって、そこに未来はなかったのだ。とにかく今は目の前にいる斉木さんとできるだけ楽しい時間を過ごすべきだ。
自分にそう強く心の中で言い聞かせて一人でうんうんと頷く。
と、同時に自分のすぐ後方から飛び込んでくる男性の声。
「里香……?」