隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。

 声が振りかかる方向をパッと見上げる斉木さん。

 
 瞬時に、彼女の顔が強張る。


 でもそれは、いつもの男性に対する強張った表情とは違う。何かを我慢するような、悲しさや寂しさが入り混じる表情。


「涼太さん…」

 
 言葉が漏れ出る程度にうっすらと開いた唇が、微かに震えている。

 瞬時に湿っぽくなる大きく見開かれた瞳。

 斉木さんの表情を見て何も気づかないほど、鈍感な自分ではない。



 俺もゆっくりと振り返って声の主の方を見上げると、そこには綺麗に仕立て上げられたスーツを着た男性が立っていた。

 物腰の柔らかそうな雰囲気を纏った男性。

 男性は、自分と目を合わせると、上品な顔立ちを崩さないまま微笑む。


「こんにちは。里香のお友達?」

 時が止まったように固まる斉木さんを尻目に、小さく「こんにちは」と言うのが精一杯だった。


 ───嫌でも分からされる。


 声の主と斉木さんがただならぬ関係性であることを。


 そして、"強気で自信家で俺様"な男では決してないであろうことを。
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