隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
 プレゼミは10人程度の小規模で、教授のガイダンスを聴きながら今後の研究方針や研究発表までの大まかなスケジュールが説明された後に解散となった。


 「やーやっぱり一般教養科目の講義とは違うね、研究って難しそう~」

 斉木さんの友達が全体に向かってそう声をかけるとその場にいた全員がうんうんと頷き同意を示す。と同時に席を立ち、ぽつぽつとゼミ室を後にし始める。

 階段を降りながら俺の前を行く斉木さんからはさっきの表情はなくなり、また友人と楽しそうに話しているのが後ろからでもわかった。きっとさっきは何か難しいことでも急に思い出したんだろうな、そう思って納得した。


 全員で講堂を出るところまでたわいもない話をしながらぞろぞろと歩き、外の空気を吸うと共に紘が声を上げた。

「1年間一緒に研究進めるっていう縁でせっかくなんだから、これからみんなでお茶でもしない?」

「あ!私も思ってた!これからよろしくの意味でさ!」

 そんな調子であっという間に話はまとまり、大学近くにあるカフェへ行くことに決まった。

 「…あれ?」

 ふと斉木さんの友人が辺りをきょろきょろと見渡す。

 「杉本さんどうしたの?」

 俺も何かさっきとは何かが変わっている、という違和感を感じていたが、気のせいだろうと気にしないようにしていた。

 そんなタイミングで紘が声をかけると、杉本さんというらしい斉木さんの友人は不審そうな顔で口を開いた。

「里香ちゃんがいなくなった…」

「え……あ…!!」

 そう言われて初めて気がついた。

 信じがたいことに、あの華やかな空気を身に纏いながら彼女はそこから消えていた。一言も告げずに。誰にも気づかれずに。
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