隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
「…ごめんなさい、わたし、男の人と話すのがとっても苦手で…緊張しちゃってつい…」
一通り涼太さんが話し終えると、私の素直な気持ちを打ち明けた。気遣ってもらっている以上、上手く話せないことをきちんと謝っておきたかった。面倒な女だと思われるだろう。
(でもそれでもいいや、どうせ今日だけなんだから)
けれど、涼太さんは笑って言った。とっても優しい笑顔で。
「謝ることなんてないよ。むしろそのまま変わらないでいてほしいくらい」
”変わらなくていい”
その言葉が自分の胸に温かく響く。
そう、私は焦っていたのだ。「変わらなきゃ」「直さなきゃ」と。でもそう思えば思うほど上手くいかなくて───
こんなありのままの私を受け入れてくれる人がいるなんて思ってもいなかった。
「…そんなこと言ってくれる人がいるなんてびっくりです……」
相変わらず俯いたままそう言葉にすると、また涼太さんは軽く笑った。
「そのままの里香ちゃんが一番かわいいよ」
「〜〜〜っ」
面と向かってそんなことを言われると耳まで真っ赤になるのが自分でもわかった。真っ赤になることで更に恥ずかしくなって今度は目にうっすらと涙が滲んでぐずぐずする。
「わーっ大丈夫?俺泣かしちゃった?」
さっきまでの大人らしい余裕の色がその一瞬で消え去り、あたふたし始める涼太さんがおかしかった。
「…ふふっ。涼太さん面白い」
少しだけ顔を上げて自然と笑うことができた。涼太さんと目が合う。少し緊張するけど、ちょっとは顔を見ることができる。
そんな私の様子を見て、涼太さんはふぅっと息をつく。そして、さっきまでのふざけた雰囲気が一瞬にしてなくなるような畏まった表情に変わった。
「あのさ、10才も離れたおじさんだけど…また会ってくれる?」
真っ直ぐに私の目を捉えてそう伝えてくる涼太さんの真意は、いくら子供の私でも分かる。
「…はい」
この人なら、大丈夫かもしれない。”変わらなくていい”と言ってくれたこの人なら。