隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
その会話の数日後、19才になった私は涼太さんの住むマンションに招待された。涼太さんがどんな家に住んでどんな生活をしているのか、なんとなくの興味本位で言ってみたのだが、いざ行くとなると緊張で心臓がばくばくする。
(家…ってことは、…しちゃうよね)
数日前から頭の中はそのことでいっぱいだった。経験がないわけではない。高校生の頃、勢いで付き合った彼に迫られて何回かしたことはある。だから大体の流れもわかっているし大丈夫、そう自分に言い聞かせた。
涼太さんのマンションの最寄駅で待ち合わせをし、近くのコンビニでお菓子や飲み物を買い込む。
「男の一人暮らしなんて味気ないもんだよ」
そう言って、どうぞと玄関に招き入れてくれる。閑静な住宅街に立つ存在感のある低層マンション。1LDKの間取りで、広いバルコニーから広いリビングに差し込む陽光があたたかで心地良い。
「わーっなんか涼太さんらしいね」
綺麗に整っているけど、整い過ぎて生活感があまりない。恐らく多忙な仕事のため、寝ることでしか使わない部屋なのだろう。
それから2人でソファに並んで座り、話していた通りの映画を観た。いちいちテレビに向かってリアクションをする私が涼太さんにとって新鮮だったのだろう。観終わった時には「映画より里香ちゃんの方がおもしろかった」と言っていた。
日が傾き始めた頃、涼太さんが「ちょっと遅れたけど誕生日おめでとう」と自室からブランドものの紙袋を持ってきて私に手渡した。かわいい包みを解いていくと現れた高そうなピアス。こんなのもらっていいのかな、と気後れもしたけど嬉しくてその場ですぐ着けてみる。涼太さんは「かわいい」と言って頭を撫でてくれた。
「もうこんな時間になっちゃったね」
気がつくと辺りはすっかり暗くなり、時計の針は18時を指していた。
今の今まで涼太さんは私に指一本触れていない。きっとこれからそういう雰囲気になっていくのだろう、そう思っていたのだけれど。
「そろそろ帰らなきゃだよね。送っていくついでにどっかでご飯食べようか。この近くのイタリアンでいい?」
涼太さんの提案に拍子抜けする自分がいた。どころか、自分ばかりそんなことを考えていたのかと恥ずかしささえ覚える。結局この日は、というかこの日も本当に何もないままお別れをした。