隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
それからしばらくして、プレゼミの日。この日は論文の再考の段階で、また各自で作業を進めることになった。俺は、前回と同じく図書館で自分の分野の文献近くの書架で作業しようと図書館に入った。すると、先に机に座っている人影が見えた。
(斉木さんだ)
声をかけるかどうか迷ったが、前回もここで一緒に作業したのだからきっと何も不自然ではないだろう。俺はさりげなく同じ机に着くことにした。
「斉木さん、ここいい?」
集中して文献を読んでいたのだろう。一瞬びくっとしてから俺の方を見上げる。久しぶりに間近で見る斉木さんは相変わらず眩しい。
「…うん、もちろん大丈夫だよ」
せっかく距離が縮まったように感じていたのに、斉木さんの対応はすっかり以前のよそよそしい感じに戻っていた。それでも一応OKを出してくれたので、俺は斉木さんと向かい合う形で席に着く。
席に着いてから先に口を開いたのは斉木さんの方だった。
「なんか…久しぶりだね」
「そういえばそうだね。元気?」
せっかく斉木さんの方から声をかけてくれたのに、当たり障りのない会話しかできない。話したいことは他にもいっぱいあるはずなのに。踏み出せない自分が情けない。
儀礼的な会話が終わると、しばらくの間お互い一言も喋らないまま文献を読んだり論文の直しをしたりと作業に集中した。この論文を提出すれば前期のプレゼミは終了だ。季節はすっかり夏に移ろうところだった。
しばらくして、手元の文献を書架に戻そうと斉木さんが立ち上がり歩き出した。
その時。
ブブッ……
すぐ向かいに置いてある斉木さんのスマホが振動する。反射的に何の気も無しに斉木さんのスマホにパッと目をやる。すると飛び込んでくる画面通知文字。
"城戸涼太"
その名前を目にしたと同時に、もう無意識のうちにメッセージの本文も読んでしまった。
"俺も里香に会いたい”
通知はしばらくして、真っ黒の画面に切り替わる。俺は、置かれたスマホから視線を上げて遠くを見つめる。
「俺”も”か……」
きっと斉木さんは、あの男性とまた恋愛関係に戻ったのだろう。何がきっかけでいつからそうなったのかはもはや分からない。けれど、二人の間に流れたあの空気は、半端な関係ではなかったことを証明していた。二人が元の関係に戻ることなんてきっと簡単なことなのだ。それくらい強く結びついていたのだ。
(あっけなく失恋ってやつだなぁ……)
元々が高望みだったのだ。容姿端麗で何でも卒なくこなし完成された美術品のような隙のない彼女がたまたま俺に見せた少女のような無垢さ。自分にだけその笑顔や素顔を見せてくれたら、なんて思ってしまったのがそもそもの間違いで。