隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
「俺、図々しかったんだな」
そう呟いて遠い目をしていると、そこに斉木さんが戻ってきた。
「……大野くん?どうかした?」
彼女は本当に心配しているように眉毛を下げて訊ねてくる。
「ううん、ちょっと考え事」
「…そっか、何かあったら言ってね。力になれるか分からないけどさ…」
───そうやって優しく笑う斉木さんが、確かに俺は好きだった。
俺はなるべく自分の気持ちを悟られないように明るく話を切り替えた。
「そういえば、『戦争と平和』全部読んだよ。中盤からどんどん楽しくなって夢中で一気読みしたよ」
友達として仲良くなれたらそれで十分だ。こうやって大学でたまに顔を合わせてたわいもない話ができれば。ちょっと前までは、斉木さんとこうやって話す未来すら予想できなかったのだから。
「そう言ってくれるの嬉しい。実はね、私も『人は何で生きるか』読んだんだよ。ああ真理だなぁって感動しちゃった。教えてくれてありがとうね」
斉木さんと何かを共有できるのが嬉しい。それだけで十分。そう思うようにしなくては。
「斉木さんはさ、こうやって没頭できる世界をもってるのが素敵だよね」
「え……?」
「そして文字にする言葉とか文章がとっても綺麗で、斉木さんがいかにその世界でいろんなことを吸収してきたのかわかるっていうか。斉木さんを構成する成分は大部分が本なんだろうなーって思ってるんだけど」
そう冗談めいて笑って言ってみたが、斉木さんは笑ったりせず、じっとこちらを見つめている。
「……斉木さんはきっとちゃんと苦手を克服できるよ、そんな気がする」
何の根拠もないし、むしろ克服なんてしなくていいなんて思っていた自分がいるのだけれど。
「うん、ありがとう」
斉木さんはいつもの調子で優しく笑った。
この笑顔を自分だけのものにしたい、他の誰にも見せたくない。そう思っていたのだけど。それはもう無理な話で。
俺はこの日、失恋したことを認めなければならなかった。
そう、"涼太さん"に負けたのだ。