Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
それから、採寸が終わって服を着直すまでの時間が、あり得ないほど長く感じられた。
すべてが済んだマーガレットは機嫌がよく、布地のほかに模様に使うビーズの種類をいくつか選んでそれをスケッチに加えると、仕切りのカーテンを勢いよく開けた。
エドモンドが積んだ椅子は横にどけられて、小さな山となっている。
「では、私は上でお針子たちに説明をしてきますわ。ええ、舞踏会には必ず間に合わせてみせますとも。お知り合いになれて嬉しかったわ、オリヴィア。どうぞお好きなだけ店内を見て回ってくださいな」
そう言って、マーガレットは小さな螺旋階段を上がって上階へ消えていった。
残されたオリヴィアは、いまだに険しい顔を崩そうとしない危険そのものの夫と二人きりにされて、どうするべきか分からずに立ち尽くしていた。
解放されたエドモンドは、薄いレースのドレスに身を包んで水色の大きな瞳を潤ませながら自分を見つめている魅力的な妻を見下ろしながら、同じく、どうするべきか分からずに立ち尽くしていた。
時間はまたゆっくりと過ぎる。
太陽が傾きかけ、店の正面のガラス窓を通して明るい黄色の光が差し込んでくる。その光を浴びて、沢山の商品のせいで埃っぽくなっている店内の空気はきらきらときらめきを帯びた。
二人は立ち尽くしたままだった。
「どんなことになるか、あなたはまったく分かっていないんだ」
ぽつり、と。
エドモンドは言った。「分かっていれば今すぐにでも荷物をまとめて逃げているだろう。手遅れになる前に。私が今、なにを考えているのか知ったら……」
大陸や東方から届いたのであろう鮮やかな布の洪水の中に取り残された二人は、静かに向き合っていた。
オリヴィアは少し疲れている。
エドモンドの胸は、興奮した深い呼吸のせいで盛んに上下していた。
彼が、なにを考えているのか分かったら……?
たしかにオリヴィアは彼の胸の内を完全には理解していないのだろう。
でも、分からないけれど、
私は逃げないわ。
オリヴィアは思った──たとえそのせいで、手遅れになったとしても。
「でも、教えて下されば、なにかお手伝いできるかもしれません。なにを考えているの?」
行儀よく前に両手を組んだまま、オリヴィアは夫に尋ねた。本当は彼の腕に手を触れたかったが……そうはせずに。
彼の答えを予想するのは簡単ではなかったし、そもそも答えてくれるかどうかも定かではない。しかし、なんでもいい。
できることなら、どんなに小さくてもいい。
彼の力になりたかった。
エドモンドはしばらく黙ったまま深い呼吸を繰り返していたが、オリヴィアは辛抱強く答えを待っていた。
どのくらい待っただろうか。
多分、実家にあったバラ園を一周できるくらいの時間だ。
エドモンドは一度、口を開いてなにかを言おうとしたが、すぐに飲み込んでしまった。そして今一度大きく息を吸って止めると、今度はゆっくりと言葉を選びながら、吐き出すように言った。
「──文明人には許されないようなことだ、マダム。あなたに理性がひとかけらでも残っていたら、想像もできないようなことを」