Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
「おはようございます、エドモンド。今日もまたいい天気ですね。あんまり気持ちがいいので、朝食の前に少し外を歩こうと思って」
少し、というあたりを強調して言ってみた。
エドモンドはわずかに目を細める。
「──厩舎で餌やりをするのは、もう止めなさいと言ったはずだが」
珍しく命令的なエドモンドの口調に、オリヴィアは目頭が熱くなってくるのを感じて、ぱちぱちと瞳をまたたいた。
「な、なにを言っているの? ちょっと散歩しようと思っただけです」
「どうして散歩にエプロンが必要なのだろう、伯爵夫人?」
「それは……その、最近、中央ではエプロンを付けて散歩するのが流行っているそうなんです! 姉が手紙で……」
「ほう」
エドモンドの答えは短かった。
「え、ええ! ほら、とても現代的でしょう? こうして裾を上げていると特に、」
と、なにを実演したいのか自分で分からないまま、オリヴィアはエプロンの裾を上げようとした。すると、ゴン!
フリルのついた水色のエプロンの端から、半分に切られた生のキャベツが落ちた。
「あ、あの、これは……」
オリヴィアはわずかに青ざめ、キャベツから妻に視線を走らせるエドモンドを納得させる言い訳を考えようとした。
容易なことではない。
エドモンドの緑の瞳は、鋭い一瞥をオリヴィアに投げかけている。オリヴィアの指が緊張に震え、つい、エプロンの裾から手を離してしまった。
ゴトゴトゴト!
今度エプロンから落ちてきたのは、大量の生のニンジンだった。
エドモンドは長身をかがめ、地面に落ちたニンジンを一本拾って掲げてみせた。
「これも流行にちなんでいるのだろうか、マダム」
「そ、そ、それは……」
エドモンドの口調がひどく呆れているようだったのに傷つき、オリヴィアは意固地になって夫の手からニンジンを奪い取った。
「散歩をしながら軽食をとろうと思っただけです。新鮮で美味しいのよ」
そして、ガブっとニンジンに食いついた。
「っ!」
──固かった。かなり。
歯がじんじんと痛んで、オリヴィアは涙目になりながら指で口元を抑えて、自分の愚かさを呪った。
それでも上目遣いで夫を見つめていると、彼は次第に表情を和らげて、オリヴィアの頬に優しく手を当てるのだった。
「部屋で大人しくしていなさいと言ったはずだが──」