Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

(でも、こればっかりは、どうしたらいいのかしら……)

 注意深く左右を確認したオリヴィアは、スカートの上に付けているエプロンいっぱいに野菜を乗せて、裾を掴んで落とさないように運ぶところだった。
 これは、今までずっとオリヴィアの仕事の一つだったのだが、最近のエドモンドは彼女にそれをさせてくれないのだ。

 それだけじゃない。

 今のオリヴィアに許されている仕事はひじょうに少なく、片手の指で数えられる程度しかなかった。
 たった一年のあいだに気が付けば、早起きも、家畜の世話も、菜園の管理もどんどん楽しくなってきたオリヴィアに、この仕打ちは中々辛いところだ。

 だから、こうして時々、エドモンドに内緒で外に出るのだが……成功することは滅多になかった。
 実際のところ、まだ一度も成功していない。
 時々、もしかしたらエドモンドにはどこかに第三の目があるとか、超人的な聴力があるとか、なにか秘密があるのではないかと思えてならない。少なくとも、ことオリヴィアに関する限り、エドモンド・バレットは並み外れた監視力を発揮した。

 それも、どうか今朝ばかりは外れますように……。


 しかし突然、小走りに厩舎へ向かうオリヴィアの背後に、人の気配と砂利道に踏み入れる足音がした。
 オリヴィアは首筋のうぶ毛が逆立つような悪寒を感じて慌てて振り返る。
 すると、そこには両腕を胸の前で組み、片足に重心をかけた格好で立っている、伯爵……エドモンドがいた。

 呆れているのが半分、怒っているのが半分、といった表情で、オリヴィアの全身を頭の先からつま先までじっと確かめている。

 オリヴィアは急いで愛想笑いをするべきか、それとも逃げ出すべきか、一瞬迷った。

 が、逃げたとしても捕まるのは時間の問題だし、オリヴィアは負けると分かっている(いくさ)を戦うほど好戦的な人間ではない。
 オリヴィアはエプロンの端をしっかり握り直し、中の野菜が露見しないようにと祈った。

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