どうも、結婚から7年放置された妻です
「それがですね。待てど暮らせど返事は届かなくって。結婚してから七年、ただの一度だって手紙が届くことはありませんでした」
「いくら勉強が忙しくとも、手紙の一通くらい書くことくらいできるだろうに」
「わたしもそう思って、屋敷の様子を見に来てくれる家令に何度か尋ねたんですよね」
「彼は何て?」
「そのたびに家令は、旦那様は忙しく時間が取れないのだと言いました」
「言い訳だな」
「そう考えちゃいますよねえ。わたしも当時は悲しくなったものです」
コルドの一刀両断にアルベルティーナは苦笑する。
「返信も書いて寄越さないなど、妻を放置するも同然だろう。ひどい夫だな」
「当時はわたしもそんな風に思いましたけれど」
と、ここでアルベルティーナは一度唇を閉ざした。
そして一呼吸ののち。
「実はですね、わたしの夫は、妻がいることすら知らなかったんですよ」
「…………は?」
再び彼の目が点になった。
してやったり。本日二度目だ。
ちなみに同じ荷馬車に乗る他の騎士たちからも驚く気配が伝わってきた。
わたしの語り口調、なかなかのものでは? とこっそり自画自賛してみる。
「そう、夫はわたしという妻を娶った事実を知らないんです。多分、今も」
「い、今も……?」
「そのことを知ったのが、今から二年前のことでした。わたしの住む家を管理してくれている夫の家令が戦地に出征することになりまして」
隣国との戦が始まり五年以上が経過し、戦地の人手不足を補うために現役を引退した元騎士にまで徴収がかかるようになっていた。戦地における人の命など、場所によっては道端の石ころ並みに軽いものだ。ドナシアンは心のつっかえをなくしておきたかったのだろう。遺言書のような手紙が届けられた。
「万が一自分が亡くなっても、わたしの生活はできるように手配していますからっていう、縁起でもない内容で、それと一緒に謝罪の言葉と理由が長々と書かれていました」
王妃はコンラードの利発さを疎み、監視下に置いた状況下でも折れない彼のしなやかさを忌み嫌うようになっていた。
表向き、自分の息子と公平に扱っていると見せなければならないことにもストレスを溜めていたのだろう。王は静観を決め込んでいたそうだが、あの時点で息子は一人きり。王弟コンラードは何かあった時の場合の息子の代わり。だからあまり無体なことはするなと王妃に釘を刺していたのだそうだ。
だからこそドナシアンは危惧した。そのような状況下でコンラードが結婚し、妻の境遇に同情し親身になって接し、互いに慈しみ合う関係になったら、王妃に格好の餌を与えることになるのではないかと。
コンラードが十二歳の頃、可愛がっていた猟犬の餌に毒が混ぜられ死んでしまったことがあったそうだ。さらに十三歳の頃には、彼の愛馬がやはり、ある朝泡を吹いて死んでいた。証拠はないが、王妃の昏い笑みが忘れられなかったドナシアンは、同じことが起こらないとどうして信じられようかという心境だったそうだ。
コンラードの苦しむ顔見たさに王妃がアルベルティーナに手出しすることを恐れたドナシアンは一計を案じることにした。
最初から結婚した事実をコンラードに伏せておけばいいのではないかと。
ドナシアンはアルベルティーナにこれまで隠していたことを知らせたという内容の手紙を領地の屋敷の使用人頭に届けてもいた。
彼らから聞かされたところによると、実際王妃の手の者と思われる人間が何度か屋敷に侵入したことがあったというのだ。
アルベルティーナが怖がってはいけないと伏せられていたが、なるほど田舎の屋敷にしては男手が多く、みんな筋肉質だったと真実を聞かされて納得したものだ。
どうやって結婚の事実を伏せたまま、結婚契約書に署名させたのかは謎なのだが、返信の手紙が届かない理由は理解した。
ドナシアンの手紙にはさらに、コンラードが結婚の事実を汚点のように考えていて普段は独身者のように振る舞っているのだと情報操作も行ったのだとも書かれてあった。
彼なりに最善を尽くそうと努力していたのだ。
「もっと早い段階で教えてくれればよかったのにって。そう思いもしましたけれど。そりゃあ、わたしはまだ子供で守られる立場だっていうのは分かっていますけれど。ずっと夫に対してもやもやした気持ちを抱えてきたので、これをどこに向ければいいのか……。とりあえず、返信には一発殴らせてほしいから絶対に生きて帰ってこいと書きましたけれど」
「いくら勉強が忙しくとも、手紙の一通くらい書くことくらいできるだろうに」
「わたしもそう思って、屋敷の様子を見に来てくれる家令に何度か尋ねたんですよね」
「彼は何て?」
「そのたびに家令は、旦那様は忙しく時間が取れないのだと言いました」
「言い訳だな」
「そう考えちゃいますよねえ。わたしも当時は悲しくなったものです」
コルドの一刀両断にアルベルティーナは苦笑する。
「返信も書いて寄越さないなど、妻を放置するも同然だろう。ひどい夫だな」
「当時はわたしもそんな風に思いましたけれど」
と、ここでアルベルティーナは一度唇を閉ざした。
そして一呼吸ののち。
「実はですね、わたしの夫は、妻がいることすら知らなかったんですよ」
「…………は?」
再び彼の目が点になった。
してやったり。本日二度目だ。
ちなみに同じ荷馬車に乗る他の騎士たちからも驚く気配が伝わってきた。
わたしの語り口調、なかなかのものでは? とこっそり自画自賛してみる。
「そう、夫はわたしという妻を娶った事実を知らないんです。多分、今も」
「い、今も……?」
「そのことを知ったのが、今から二年前のことでした。わたしの住む家を管理してくれている夫の家令が戦地に出征することになりまして」
隣国との戦が始まり五年以上が経過し、戦地の人手不足を補うために現役を引退した元騎士にまで徴収がかかるようになっていた。戦地における人の命など、場所によっては道端の石ころ並みに軽いものだ。ドナシアンは心のつっかえをなくしておきたかったのだろう。遺言書のような手紙が届けられた。
「万が一自分が亡くなっても、わたしの生活はできるように手配していますからっていう、縁起でもない内容で、それと一緒に謝罪の言葉と理由が長々と書かれていました」
王妃はコンラードの利発さを疎み、監視下に置いた状況下でも折れない彼のしなやかさを忌み嫌うようになっていた。
表向き、自分の息子と公平に扱っていると見せなければならないことにもストレスを溜めていたのだろう。王は静観を決め込んでいたそうだが、あの時点で息子は一人きり。王弟コンラードは何かあった時の場合の息子の代わり。だからあまり無体なことはするなと王妃に釘を刺していたのだそうだ。
だからこそドナシアンは危惧した。そのような状況下でコンラードが結婚し、妻の境遇に同情し親身になって接し、互いに慈しみ合う関係になったら、王妃に格好の餌を与えることになるのではないかと。
コンラードが十二歳の頃、可愛がっていた猟犬の餌に毒が混ぜられ死んでしまったことがあったそうだ。さらに十三歳の頃には、彼の愛馬がやはり、ある朝泡を吹いて死んでいた。証拠はないが、王妃の昏い笑みが忘れられなかったドナシアンは、同じことが起こらないとどうして信じられようかという心境だったそうだ。
コンラードの苦しむ顔見たさに王妃がアルベルティーナに手出しすることを恐れたドナシアンは一計を案じることにした。
最初から結婚した事実をコンラードに伏せておけばいいのではないかと。
ドナシアンはアルベルティーナにこれまで隠していたことを知らせたという内容の手紙を領地の屋敷の使用人頭に届けてもいた。
彼らから聞かされたところによると、実際王妃の手の者と思われる人間が何度か屋敷に侵入したことがあったというのだ。
アルベルティーナが怖がってはいけないと伏せられていたが、なるほど田舎の屋敷にしては男手が多く、みんな筋肉質だったと真実を聞かされて納得したものだ。
どうやって結婚の事実を伏せたまま、結婚契約書に署名させたのかは謎なのだが、返信の手紙が届かない理由は理解した。
ドナシアンの手紙にはさらに、コンラードが結婚の事実を汚点のように考えていて普段は独身者のように振る舞っているのだと情報操作も行ったのだとも書かれてあった。
彼なりに最善を尽くそうと努力していたのだ。
「もっと早い段階で教えてくれればよかったのにって。そう思いもしましたけれど。そりゃあ、わたしはまだ子供で守られる立場だっていうのは分かっていますけれど。ずっと夫に対してもやもやした気持ちを抱えてきたので、これをどこに向ければいいのか……。とりあえず、返信には一発殴らせてほしいから絶対に生きて帰ってこいと書きましたけれど」