どうも、結婚から7年放置された妻です
「アルベルティーナ様でございます」

 さらりと告げられた名前に、コンラードは頭に岩石の直撃を受けたかのような衝撃を覚えた。
 アルベルティーナだから、普段はベルと呼ばれているのだろう。

「やっと……やっと、コンラード様にアルベルティーナ様をご紹介できると、それだけを楽しみに王都に帰還しましたのに。ななななんだって……り、りこ、離婚など……」

 聞けば、本日手紙が届けられたらしい。領地から王都に出てきており、逗留している宿の下働きが配達しに来たそうだ。
 実物だと手渡されたのは、気が動転したドナシアンによってくしゃりと握りしめられたのだろう、皺になった手紙だ。
 そこには、流麗な文字でこんなことが書かれてあった。

『ドナシアンへ。無事に戦場から帰還したあなたを一発殴るのはかわいそうなのでやめにします。その代わり、わたしとコンラード様の離婚について話し合いましょう。わたしのことは心配しないでください。庭付き一軒家さえもらえれば、これまで通りばあやたちとのんびり元気に暮らしていけますので。アルベルティーナより』

 慰謝料代わりに庭付き一軒家。ばあやたちとのんびり元気に。
 そこには夫であるコンラードの一文字だって書かれていなかった。

 コンラードは顔から血の気を引かせた。
 これはまずい。

 今日始めて妻がいる事実を知らされはしたものの、自分はベル、いやアルベルティーナにとってみれば最低最悪の夫である。
 とにかく謝罪だ。

 立ち上がったコンラードは大きな歩調で扉の前に向かった。

「コンラード様、どちらへ?」
「俺の妻に会いに行く!」
「そ、それがようございます! まずは誠意を見せねば」
 ドナシアンも立ち上がった。

「って、おまえも謝るんだぞ! あと、俺にも謝れ! 人を騙して結婚契約書に署名させるとか、ありえないだろ!」
「あの時は、うっかり騙されたコンラード様が将来あやしい壺を買わされないかと心配になりました」
「騙したおまえが言うな!」

*

 長い間続いた戦が終わったということもあってか、王都は明るい空気に包まれていた。
 アルベルティーナは、王都観光を楽しんでいた。

「んん~。やっぱり王様の住む都市って大きいわねえ~」
「本当に。大聖堂も市庁舎も立派なものでしたねえ」
「大聖堂で買ったメダイユ、みんな喜んでくれるかしら」

「お嬢様が自らお選びになったのですから、皆泣いて喜びますとも!」
「ばあやは次どこ行きたい?」
「わたしはお嬢様の行きたい場所へお供するだけでございますよ」

 逗留先の宿屋と契約している辻馬車は、宿の台帳係が駄賃交渉を代行してくれるため、街中で流れの辻馬車を見つけるよりも安心だ。

「噴水広場を見ようかしら。それともお菓子屋さんの方がいいかしら」
「時間はまだありますから、両方回りましょうか」

 無蓋馬車の御者席から尋ねられたため「じゃあ、それでお願い~」と返事をした。

 観光ついでに聞こえてくる噂話に耳を傾ければ、停戦の立役者である王弟に対する感謝の言葉がそこかしこから聞こえてきた。
(わたしのまだ見ぬ夫……すごい! 大人気じゃない)

 皆の笑顔の裏に彼の頑張りがあったのだと思うと、アルベルティーナも嬉しくなった。
 なんだかんだと日中一杯観光を楽しんだアルベルティーナは買い込んだ土産と一緒に宿に戻った。

「楽しかったわね。夕食はどこか、別の店に食べに行きましょうか。こんなにもたくさんお店があるんだもの。せっかくだから色々試してみたいわ」
 などと話しながら宿の玄関扉をくぐった直後のことだった。

「アルベルティーナ!」
「お嬢様!」

 大きな声を出しながら男性二人がこちらへ近付いてくるではないか。
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