ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「……っ、はっ」

「おお、いい飲みっぷり」

 空のビールジョッキをテーブルに置いたタイミングで、圭人は茶々を入れる。じろりと睨むものの、圭人は一切動じない。

「そんなに怒るなって、大和」

「……やかましいわ」

「お前は家のこともあって、なかなか踏み切れないのは分かるけど、彼女、カネ目当てで近づいて来た訳じゃないのは確実だろう?」

 先ほどまでの揶揄うような笑顔はどこへやら。圭人はいつになく真剣な表情になっていた。

「それは……まあ」

「だったら、他のヤツに先越される前に動いたほうが良いと思うけど」

 圭人の言葉に、俺はつい黙り込む。

 警察官になりたいという夢のために、俺は柔道選手としての周囲の期待を裏切ってしまったが、それだけではなかった。

 自分の「秘密にしている一面」を知った時、橘さんがどんな反応をするのか。俺にはまったく想像ができない。それもあって、告白を踏みとどまっているのだ。

 とはいえ、行動しないのに他の男に渡したくないと考えるのは、とんでもなく矛盾しているのは重々承知だ。早めに俺は、覚悟を決めなければなるまい。

(橘さんは……俺のすべてを、受け入れてくれるのだろうか)

 二杯目のビールを飲みながら、俺は心の中で呟いた。
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