ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「黒崎さん、お願いできますか?」

「もちろん」

 葉月ちゃんを下ろしてから、黒崎さんは青波くんを高く持ち上げた。すると青波くんは、満面の笑みで足をバタつかせる。

「高い、高い!」

 青波くんが存分に楽しんだところで、黒崎さんは青波くんを下ろした。そんな黒崎さんの顔は、どことなく嬉しそうだった。

「楽しんでくれたみたいで、良かった」

「あのー、すみません」

 振り向くと、声をかけてきたのは、年配のボランティアスタッフの方だった。

「良かったら、他の子も高い高い、してもらえませんか? みんな、羨ましそうに見てて」

 児童館の室内に目を向けると、部屋の中で遊んでいた子供たちは、黒崎さんのことを物欲しそうな顔で見つめていた。

「……もちろんです」

「ありがとうございます!」

 こうして、黒崎さんは子供たちを順番に「高い高い」することになったのである。

「高い高ーい!」

「きゃっ、きゃっ、きゃっ!!」

 黒崎さんに持ち上げられた子は、嬉しそうに歓声を上げる。そしてしばらく楽しんだあと、下ろされる。その繰り返しだ。

「みんな、お兄さん一人しかいないからら順番だよー!」

 いつの間にか、黒崎さんの周りには「高い高い」を待つちびっ子の待機列ができ上がっていた。

 みんな担当のボランティアスタッフと手を繋いで、行儀よく並んでいる。まるで、遊園地でアトラクションに乗るために並んでいる人々のようだ。

「高い高ーい! 高い高ーい!」

「きゃっ、きゃっ、きゃっ!」

 結局黒崎さんは、待っていた全員の子を、「高い高い」したのだった。
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