ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女


「こんなケーキ屋さんがあったなんて、知りませんでした」

 席についてから、私は店内を見回しながら目を見開いた。

 店内は、まさに絵本の可愛らしい世界観そのままのカフェであった。

 木張りの床と、クリーム色の壁。天井は落ち着いた赤色なので、ショートケーキのような色合わせだ。

 作中、食いしん坊なカバくんがお店を大きなケーキと勘違いして壁にかぶりつく展開があるのだが、入口近くの壁にはカバくんのかじり跡が忠実に再現されている。

 そして各テーブルには、絵本にも登場する、ケーキ屋さんで働く動物のぬいぐるみが一匹ずつ置かれているのだった。

「ふふっ、俺もこの前SNSで見て、初めて知ったんです。子どもから大人まで楽しめるって書いてあったんで、気になりまして」

 手拭きの袋を破りながら、黒崎さんは言った。

 たしかに店内には、子ども連れだけでなく、大人だけのグループの客もたくさんいる。そのため、私と黒崎さんも店内で浮くことなく過ごせていた。

「さて、何を頼みましょうか」

「たくさんあって、迷っちゃいますね」

 メニューはケーキだけで十種類もあり、どれも美味しそうで目移りしてしまう。私たちは知らぬ間に、メニュー本を何往復もしていた。

「じゃあ、これと、これにしましょうか」

「はい!」

 結局、黒崎さんと私は、それぞれ違うメニューを頼んで半分こすることにした。とてもじゃないが、ひとつに絞りきれなかったのだ。

「そう言えば、橘さんは『一日シリーズ』でどの本がお好きですか?」

 注文を終えたあと、黒崎さんは私に問いかけた。
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