ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
 『一日シリーズ』とは、「ケーキ屋さんの一日」を含む幼児向けの絵本シリーズである。

 この絵本は森の動物たちが働く職場が舞台であり、お洋服屋さんやお化粧品屋さんなど、あらゆるお店が登場する。

 三十年以上前の作品だが、今なお幅広い人気を集める大ヒットシリーズなのだ。そして保育園の読み聞かせでも、えんじたちから大好評だったのをよく覚えている。

「うーん……どれも好きですけど、お客さんにお洋服を着せて遊べるので、子どもの頃は『お洋服屋さんの一日』を何度も読んでました」

 『一日シリーズ』では、必ず本の中で迷路や間違い探しなど、遊べるページが用意されているのだ。

「黒崎さんは、どれがお好きでしたか?」

「俺はやっぱり、『おまわりさんの一日』が一番好きです」

「ふふっ、黒崎さんらしい」

「それを読んで警察官になりたいって思ったぐらいで……っ!?」

 そこまで言って、黒崎さんは「しまった」というような表情で口に手を当てたものの、まさに時すでに遅し、である。

「もしかして、お巡りさんになった理由って……」

「はい。絵本を見て憧れたからです」

 観念したかのように、黒崎さんは呟く。その頬は、ほんの少し赤くなっていた。

 どうやらそれは、黒崎さんがあまり他人に知られたくないことのようだった。

「……」

 互いに口を閉ざし、気まずい沈黙が流れる。私は黒崎さんに、どう声をかけるべきか迷ってしまったのだ。

(地雷を踏んだ、とまではいかないけど……なんて言えば良いのかしら?)

 必死に考えていると、私たちの席から少し離れた場所にある壁本棚に目が留まる。

 本棚には、歴代の『一日シリーズ』の絵本がすべて並んでおり、カフェの客が自由に読めるようになっていた。

「黒崎さん」

「っ……」

「ケーキと紅茶を待っている間、せっかくなので『おまわりさんの一日』を読んでみませんか?」
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