ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女


「ふふっ、なんだが懐かしいですね」

 本棚から持ってきた『おまわりさんの一日』の表紙を見ながら、私はクスクスと笑う。

 表紙には、帽子を被って警察官の制服を着た、可愛いらしいクマのキャラクターが描かれていた。

 このお話の主人公は、森の交番で働くクマのお巡りさんだ。彼はとっても優しくて、森に住む住民たちからも慕われている。

 そしてお巡りさんが、落し物の対応や迷子の保護など、様々なお仕事をしていく姿をこっそり覗いてみよう……というのが、絵本の大まかなあらすじである。

「その、橘さん」

「はい?」

「俺のこと、子どもっぽいだとか……笑わないんですか?」

 そう言った黒崎さんの表情は、見たことがないほどに不安げであった。

 私は躊躇うことなく、首を横に振る。

「笑いませんよ。小さい頃の夢を叶えるだなんて、立派じゃないですか」

「え?」

 幼い頃に憧れていた職業を選んだのは、実は私も同じだった。

 私が保育士になりたいと思った理由は、自分が保育園に通っていて楽しかったからだ。

 優しい保育士の先生はみんな優しくて、先生に会うのが毎日楽しみなほどだった。

 自分も、先生みたいになりたい。その想いは成長してからも消えなかったので、私は保育士の道に進んだのだ。

 けれども結局、私は保育士を辞めてしまった。そんな自分からすれば、大変なことがあっても警察官を続ける黒崎さんには尊敬しかなかった。

「それに憧れの職業に就くよりも、続けていくのはもっと難しいことなので……尊敬します」

「……っ、ありがとうございます」

 私がそこまで言うと、ようやく黒崎さんは安心したようだった。
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