ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「可愛い色で、とっても似合ってますよ」

「……っ!?」

 黒崎さんのひとことに、イスから転げ落ちそうになる。ちらりと彼の顔を見ると、黒崎さんは穏やかに笑っていた。

「っ、ありがとうございます」

 些細なことだけれども、黒崎さんに褒められるのは嬉しい。

(でも……同じように、黒崎さんが『可愛い』って褒める相手が他にいるとしたら?)

 そう考えた途端、胸がチクリと痛むのを感じた。



「ケーキ、美味しかったですね」

 ケーキと紅茶を楽しんだ私たちは、店を出てから駅に向けて歩いていた。

「ここだったら、近いので気軽に来れそうですね」

「ふふ、たしかに。いいとこを知れて、良かったです」

 また今度、一緒に来ませんか?

 そんな言葉が喉まで出かかるが、なかなか言い出せない。

 そうこうしているうちに、駅の改札前まで来てしまった。私と黒崎さんは別方面の電車に乗るため、ここでお別れだ。

「橘さん、今日もありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。ケーキと紅茶ご馳走様でした」

 私も支払うと言ったものの、結局『森のケーキ屋さん』での飲食代は黒崎さんが払ってくれた。私はあらためて、お礼を言った。

「いえ、大したことじゃないので……」

 そこまで言って、黒崎さんは何か言いたげに口をモゴモゴさせる。私が言葉の続きを待っていると、彼はなぜか目を逸らしてしまった。

「その、良かったら……またこんな感じで……」

 黒崎さんがそこまで言いかけたところで、どこからか女性の声が聞こえてきた。

「あれ、誰かと思えば大和じゃない!」

「っ、紫音……なんで、こんなとこにいるんだよ」

「仕事帰りに決まってんじゃない。久しぶりね。……あら?」

 女性の視線が、黒崎さんから私へと映る。彼女は芸能人のように整った顔立ちであり、目が合うだけでドキリとしてしまう。

「初めまして、大和の幼なじみの、宇城( うき)紫音(しおん)です」

 自信を湛えた笑みを浮かべて、宇城さんは私に挨拶した。
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