ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女

貴女は不釣り合い

「橘さんって保育士だったんだ!」

「は、はい……」

 駅の改札を抜けたあと、私と黒崎さん、そして宇城さんの三人は、横並びになって地下鉄までの構内通路を歩いていた。

 どうやら宇城さんは話好きな人のようで、私は質問攻めに遭っていた。

「やっぱり、ピアノも弾けるの?」

「はい、ある程度は……」

「へえ、すごいじゃない!」

「紫音、橘さんが困ってるだろ」

 呆れたような口調、黒崎さんは宇城さんを窘める。その砕けた話し方は、彼が宇城さんと気の置けない仲であることを示していた。

「ええ、いいじゃない! 可愛い女の子とたくさん喋りたいに決まってんでしょ?」

 黒崎さんの言葉を受けて、宇城さんは口を尖らして言い返す。二人のやり取りは、まるで仲睦まじいカップルのようだった。

(さっき、宇城さんは黒崎さんの幼なじみって言ってたけど、もしかして……)

 そこまで考えていたところで、地下鉄の分かれ道にたどり着いたのだった。三人の中で、私だけは別方面である。

「あら、お話ししてたらあっという間だったわね」

「橘さん、帰りお気をつけて」

 黒崎さんがそう言った瞬間、宇城さんは一歩横に動いて、彼との距離を詰めた。片腕同士が触れ合いそうな距離感は、親密な人にしか許されないものである。

 そんな二人を見て、ガラス片が突き刺さったかのように胸が痛む。

「橘さん?」
 
「い、いえ……じゃあ、ありがとうございました」

 胸の痛みを堪えながら、私は振り返ることなく早足で地下鉄に向かった。
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