ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女


「はあ、はあ……っ」

「橘さん、大丈夫ですか?」

「は、はい……息切れしましたけど、なんとか……」

 なんとか駅に着いたものの、外は大雨となっていた。駅までの道で本降りになったため、上から下までびしょ濡れである。

 そして運悪く、私は白いTシャツを着ていたので、下着の線が透けてしまっていた。シャツを肌から離して誤魔化すものの、このままの格好では、電車に乗れない。

「っ、その……これ、羽織ってください」

 黒崎さんはカバンから前開きのパーカーを出して、私に着せた。サイズはぶかぶかだが、身体を隠すには十分だ。

「ありがとうございます……あら?」

 見ると、改札の前にはホワイトボードが置かれていて、人だかりができていた。

 近づいてみると、ホワイトボードにはこう書かれていた。

『〇‪✕‬線について、車両不具合のため全区間運転見合わせ。再開時期未定』

「電車、止まってるみたいです……」

「ウソ……!」

「タクシー乗り場は……」

 駅のタクシー乗り場を見たものの、すでに長蛇の列となっていた。タクシーの配車アプリを見てみても、なかなか捕まりそうもない。

「ご家族の方、誰か迎えに来れそうですか?」

「いえ、今日は私以外みんな留守なので……タクシーでなんとか帰ろうと思います」

 こればかりは仕方がない。そう思っていると、黒崎さんは意外な提案をしてきたのだった。

「橘さん、その……」

「?」

「この近くで、泊まれるホテルがひとつあるんですけど……どうでしょう」

 それは紛れもなく、「お泊まり」のお誘いだった。
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