ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女

黒崎さんの秘密

「寒くないですか?」

「はい、大丈夫です」

 駅のコンビニで買った大きめのビニール傘を分け合いながら、私と黒崎さんはホテルまでの道を歩いていた。

「肩が濡れてますよ。もっと中側に寄ってください」

「っ、あ、ありがとうございます」

 黒崎さんは腰に回していた手で、私の上体をそっと引き寄せた。

 片手で抱き寄せるようなその仕草で、服越しとはいえ半身がぴったりと密着する。それでも、不思議と抵抗はなかった。

 それは、私の心も身体も黒崎さんのすべてを受け入れていることの表れであった。

 黒崎さんに外泊を誘われた時、どこのホテルか聞くことなく、私は自然とうなずいていた。黒崎さんに判断を委ねることに、何も迷いがなかったのである。

 もちろんそれは、大人二人がホテルに行くという行為の意味を知ってのことだ。

 今まで、自分は臆病な性格だと思っていたので、まさかこんな大胆な決断を下すとは想像もしていなかった。

「お待たせしました。ここです」

「え?」

 黒崎さんが立ち止まったのは、裏通りにある小汚いラブホテル……ではなく。

 大通り沿いにある、有名なラグジュアリーホテルだった。

「えっと、黒崎さん。その……本当にここで合ってます?」

 入口にドアマンが立っているようなホテルなんて、人生で一度も足を踏み入れたことがない。私はつい、黒崎さんの顔を見た。
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