ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「恐れ入ります、お客様」

「は、はい!?」

 突然ホテルのスタッフに声をかけられ、素っ頓狂な声を上げる。そして「お客様は当ホテルに相応しくないため、お帰りください」と言われるのを覚悟して身構える。

 が、しかし。

「足元がお悪い中お越しいただき、ありがとうございます。よろしければ、こちらのタオルをお使いください」

 そう言って、スタッフの方は白いハンドタオルを差し出してくれた。

「また、当ホテルではウェルカムドリンクをご用意しておりまして、いかがなさいますか?」

「じゃあ……ホットのハーブティーでお願いします」

「かしこまりました。お持ちしますね」

 渡されたメニュー表から注文すると、スタッフはすぐにハーブティーを運んできてくれた。

「あ、ありがとうございます」

「ごゆっくりお過ごしくださいませ」

(って、まだ泊まるって決まってないのに、頼んで良かったの!?)

 もし予約が取れなかった場合、やはり飲み物の代金を請求されるのだろうか……と考えると、冷や汗が止まらない。

 しかし、頼んでしまったならば、美味しくいただこうと思い直し、私はハーブティーを飲み始めた。

 そしてちょうど飲み終わったところで、黒崎さんが私を呼んだのだった。

「橘さん、少しいいですか?」

「はい?」

「夕食なんですけど、メイン料理が魚で良ければルームサービスで頼めるみたいで……アレルギーとか苦手な食材ってありますか?」

「いいえ、特にないです」

「良かった。それでは夕食もお願いします」

「かしこまりました」

「橘さん、部屋の予約が取れたので行きましょうか」

「は、はい……!」

 こうして、私たちは部屋へと向かったのである。
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