ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
 慌てて私はそう言ったものの、葉月ちゃんのお母さんは首を横に振る。

「あの時、橘先生が担任の先生で本当に良かったです」

 担任の先生で良かった。そのひとことに、心臓を撃ち抜かれたかのような衝撃が全身にはしる。

 当時の私は、保育士としての自信を完全に失っていた。努力しても主任からは嫌味を言われ、保護者の方からの苦情に怯える日々。そんな毎日を、園児たちの笑顔を支えに過ごしていた。

 今の私は保育士もう、保育士ではない。けれども、あの日の自分が報われたような気がしたのである。

「今日は本当に、ありがとうございました」

「優花先生とお兄ちゃん、ばいばーい!」

 帰り際、葉月ちゃんは大きく手を振ってくれた。そんな葉月ちゃんを見て、私は目頭が熱くなっていた。

「楽しんでくれたみたいで、良かったですね、橘さん」

「っ、は、はい」

 黒崎さんに声をかけられ、私はハッと我に返る。彼が隣にいるのを、すっかり忘れていたのだ。

 先程のやり取りを聞かれていたことが、急に恥ずかしく思えてくる。

「ところで、葉月ちゃんたちは何で俺のことを怖がらなかったんですか?」
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