ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女


「だいぶ混み合って来ましたね」

 花火がもうすぐ始まるということもあり、境内の混み具合は最高潮に達していた。

 合縁神社は川沿いにあり、その河川敷で花火が打ち上げられる。間近で見る花火は大迫力ということもあり、毎年大人気なのだ。

 花火を見る会場まで、人混みをかき分けるように歩くものの、黒崎さんの後ろを歩いているからか、人にぶつかられることはない。そのため雑踏の中でも、守られているような安心感があった。

「橘さん!」

 急に振り向いて、黒崎さんは私を呼んだ。

「は、はい?」

「この先、今以上に混んでるみたいなんで、はぐれないように俺の服か何か、適当に掴んどいてください。それか……」

 おずおずと、彼は私に右手を差し出した。

「その……嫌でなければ」

 それは、手を繋がないかという、お誘いだった。

 少し気まずそうな、言って後悔したかのような黒崎さんの態度を見て、私は首を傾げる。

 何を今更、という気持ちだったのだ。

「嫌でなければって、さっき射的の屋台から逃げる時、思いっきり繋いでたじゃないですか。それにこの前体調不良になった時だって、……抱っこしてくれましたし」

「え? ……あっ!!」

 私のひとことを聞くやいなや、黒崎さんは驚きの声を上げる。そしてみるみるうちに、顔が赤くなっていった。

「すみません……! なんか、助けなきゃとかどうにかしなきゃとか焦ってると、考えなしに手が出るというか……!」

 どうやら今までのスキンシップは、完全なる無意識だったようだ。
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