ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「お賽銭の小銭ありますか? 何枚か持ってきたんで、分けれますよ」

「っ、大丈夫です」

 お参りの列に並ぶ間も、黒崎さんとのたわいのない会話が続く。それがなぜか、とてつもなく贅沢な時間に感じられた。

 神様に願えるのは、縁切りか縁結びのどちからひとつだけ。

 お賽銭箱の前に来たタイミングで、すぐに私の心は決まった。

(どうか、黒崎さんの悪縁が断ち切れて、彼がこれからも無事でありますように)

 柏手を打ったあと、私は心の中で願った。黒崎さんは、自分自身の縁切りを願うだろうから、きっと二人分の願いなら叶えてくれるはず。そんな淡い期待をしながら。

 お参りを終えて参拝の列から外れたあと、黒崎さんは立ち止まった。

「そうだ、すっかり忘れてました」

「?」

「これ、どうぞ」

 差し出されたのは、彼が射的で手に入れたクマのぬいぐるみだった。

「そんな……いいんですか?」

「ふふっ、もちろんです。今日一日、お世話になったお礼です」

 首元に赤いリボンを結んだクマのプラスチックの目は、周囲の明かりを反射してキラキラと輝いて見えた。

 ただ単に、黒崎さんとしては、ぬいぐるみが不要だっただけなのかもしれない。しかし私からすれば、ぬいぐるみは特別なプレゼントに思えて仕方がなかった。

「っ……ありがとうございます」

「いえ。じゃあ、そろそろ帰りましょうか。駅まで送りますよ」

 こうして私たちは、神社をあとにしたのだった。
< 65 / 145 >

この作品をシェア

pagetop