ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「じゃあ、橘さん、いきますよ!」

「はーい!」

 黒崎さんは、私に向けてボールを転がす。私は問題なく受け取れたものの、予想だにしない指摘が飛んできた。

「違うよ」

 黒崎さんを見ながら、翔くんは言った。

「……え? 翔くん、どうしたの?」

「‘‘たちばなさん’’じゃなくて、 優花ちゃんだよ!」

「!?」

 どうやら翔くんは、黒崎さんが私をさん付けで苗字呼びしたのが気になったらしい。ちなみに大人には分からないこだわりを持つ子は、意外とたくさんいるものだ。

(でも、さすがに大の大人をちゃん付けで呼ぶのは……ね)

「ごめん、間違えちゃった。……優花ちゃん」

「っ!?」

 翔くんの指摘を受けて、黒崎さんはすぐに私の呼び方を変えた。

「うんうん!」

 驚いて黒崎さんのほうを見ると、彼の顔はほんのり紅潮していた。そんな様子を見て、私もまた赤面してしまう。

「じ、じゃあ、気を取り直して、翔くん行くよー!」

「はーい!」

 恥ずかしさのあまり内心もんどりをうちながらも、私はボール遊びを続けた。
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