ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「なるべく平らで、丸みがある石を選ぶと良いみたいです」

「なるほど、詳しいですね」

「ふふっ、実は田舎のおじいちゃんが水切りが得意で、子どもの時に教えてもらったんです」

「ふふっ、あ、この石とか良さそう」

 ちょうど手ごろな石が二つ落ちていたので、私は拾ってからひとつ黒崎さんに渡した。

「えいっ」

「ふっ」

 私たちがほぼ同時に投げると、ふたつの石はどちらも三回跳ねた。

 まさか最初からこんなに上手くいくとは思わず、私と黒崎さんは驚いて顔を見合せた。

「今、見ました?」

「ええ。……黒崎さん、お上手ですね」

「いえ、ただ……頑張ったら川の向こう岸までいけそうじゃないですか?」

 三回跳ねた石は、川の真ん中辺りで沈んだ。つまり、六回跳ねたら向こう岸に届く計算になる。

「ちょっと、頑張ってみません?」

「ふふっ、やってみましょうか」

 私たちは、向こう岸を目指して石を投げ始めた。

「えいっ!」

「やあっ!」

 どうやら、この川の石は水切りがしやすいらしく、投げたら一度は必ず跳ねてくれる。それもあり、私も黒崎さんもすっかり夢中になっていた。

「ていっ!」

 十投目に黒崎さんが投げた石は、水面を五回弾んで向こう岸のすぐ近くで落ちてしまった。

「ああっ、黒崎さん惜しい!」

「何か俺、ちょっと要領が分かってきたかもしれません」

「え、本当ですか?」

「はい、なるべく石を真っ直ぐ投げると、よく跳ねるみたいで……」

 説明しながら、黒崎さんは石を投げた。すると、やはり石は四回弾んだのである。

「なるほど……えいっ」

 私も教えてもらったとおりに投げたものの、理解できるかと実践できるかは別の話であり、石は一回だけしか弾まなかった。
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