ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「今だと下方向に投げてしまってたので、こう……真正面を見て、そのまま投げると言いますか」

 黒崎さんは身振り手振りを交えて教えてくれるものの、なかなか上手くいかない。

「うーん、何と言えば良いのか……」

「黒崎さん、良かったら……一緒に投げてみてもらえませんか?」

「な……っえ!?」

 テニスのコーチが生徒にフォームを教える時のように、いっそ自分の身体を使って実践してもらった方が分かりやすいと思ったのだ。

「えっ、と。嫌じゃないですか?」

 照れたような黒崎さんの様子を見て、私は自分がとんでもないことを口走ったことにようやく気づく。

 しかし、今更引き下がるのも気が引ける。私は照れ隠しに、全力で頷いた。

「っ、お願いします……!」

 黒崎さんは私の背後にまわり、私の手を取った。そして、私の石の持ち方などを細かく変えていった。手取り足取りとは、まさにこのことだろう。

「じゃあ、いきますよ。さん、はいっで手を離してください」

「はい……!」

「さん、はいっ!」

 腕を思い切り振って、私は石を投げた。

 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!

 石は水面を見事に駆け抜けて、向こう岸に辿り着いたのだった。

「やったあ!」

「やりましたね!」

 私たちは反射的に抱き合って、思いっきり歓声を上げた。まるで、ボウリングでストライクをとったような嬉しい気分だったのだ。
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