ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
 お盆休みも終わる時期だが出かけている人が多いのか、街全体が閑散として蝉の声に覆われていた。

 考えてみればこんなふうに二人で歩くのは、初めて会ったあの冒険の日以来二十年ぶりだった。

 蒼也と会うのは御更木家の行事に呼ばれた時か、悠輝を挟んで三人でいるときだけだった。

「連絡もしないで突然押しかけてしまってすまない」

「どうせ見てませんでしたから」

「そ、そうか」と、蒼也が口ごもる。「一方的にメッセージを送りつけてすまなかった」

「いえ、返信できなくてこちらこそすみませんでした」

「ちゃんと話し合うべきだとは分かっていたんだが、マスコミやら取引先への対応ですぐに会いに来られなくて申し訳なかった」

「いいですよ」と、翠は両腕を空に突き上げてつぶやいた。「気持ちの整理がつかなかったから、かえって考える時間ができて良かったです」

 皮肉ではなく、本音だった。

 あれから冷静になって考えてみると、蒼也が本当の気持ちを何度も口にしていたことに気づいたのだ。

 特に、『大事にするよ。当たり前だろ。俺の最愛の人だぞ。じいちゃんがばあちゃんを愛していたように、俺だって翠を愛してるに決まってるだろ』という叫びが演技だったとは思えない。

 それに、幸之助の前で初めて交わしたキスも熱かった。

『初めて会ったあの日から、ずっとこの時を夢見てきたよ』

『ずっと愛していたよ、翠。これからも愛してるよ』

 もしそれがただの演技なのだとしたら、その時は本当に別れよう……そう思って出てきたのだった。

 じりじりと照りつける日差しを避けて、二人は樹木生い茂る公園に入った。

「すまなかった」と、あらためて蒼也が頭を下げる。

「いえ、いいんです」

「じいさんのために緊急で無理矢理納得してもらおうと、俺が『偽装結婚』なんて言ったから、余計な心配をかけてしまったんだよな」

 翠の返事を待たずに蒼也が言葉を継いだ。

「俺は最初から本気だったんだよ。それなのに、あんな申し込み方をして悪かった。二十年前の約束で翠の気持ちを縛りつけているんじゃないかって、どうしても踏み込むことができなかったんだ」

 緑がかった茶色の瞳が熱を帯び、言葉があふれ出してくる。

「正式に俺の妻になってくれ」と、蒼也は翠の手を握った。「もう結婚式もしたのに今さら正式になんて、俺が悪いんだよな。だけど、今度こそ、偽装じゃない、本当の本物の妻になってほしい。ずっと俺だけの宝石でいてくれよ」

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