警視正は彼女の心を逮捕する
「せっかくのチャンスだから、口説かせてもらう」

 なんでそうなるの?

「一ヶ月前、『もう我慢しない』と告げたはずだ」

 ……そう、でした。
 でも、いきなり実力行使するなんて。

 今期、私が勤めている美術館の展示テーマは【結婚】。
 しかも、彼は【求愛】というタイトルの前で指輪を出してきた。
 確信犯の所業だ。

 ううう、今日の出来事は絶対SNSで拡散されている。
 真似する人達が出てきたら、どうしてくれるのよ!

 心の中で悪態とかつくしかできない。

 ふたたびだんまりを決め込む私に、鷹士さんはきっぱり言った。

「俺を拒否できなかったのは、日菜乃の弱いところだ」

 そうだけど、でも!

「与えられた好機は逃さない」

 鷹士さんの、肉食獣みたいな双眸と雄みをました声に、クラクラしてくる。
 唇が耳たぶをねぶらんばかりに寄せられる。
 触れている、彼の体が熱い。

「ほら、『チャンスは前髪にしかない』って言うだろ?」

 嘘だ。
 この人は前髪があろうがなかろうが、チャンスを掴んで離さない人だ。

 第四、第五展示室は素通りされた。
 惜しい、私の大好きな絵が第四にあったのに。
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