警視正は彼女の心を逮捕する
 指輪は、たしかに左手の薬指には大きかった。
 右手の薬指だったら、ピッタリしていたかもしれない。

 ……って、なに考えているの、私! 
 まるで受け取りたいみたいではないか。
 自分を叱咤しているうち、気づいてしまった。

「私」

 嬉しかったけれど、受け取れない。
 真顔になってしまっただろう私と違い、鷹士さんは穏やかな表情だ。

「日菜乃の気持ちはわかっている。仕事のときに嵌められないからだろう?」

 美術品に瑕疵をつけてしまう可能性があるから。

 鷹士さんの言葉に、私は口をぱくぱくさせてしまう。
 ……頭のいい人って予測がすごい。

「じゃあ、どうして指輪を用意してくれたの?」
「これは、二人でいるとき用」

「だったら!」

 ハッと口をつぐむ。
 私、今なにを言おうとした……?

 慌てて鷹士さんの顔を見る。
 ニッと悪い顔をしているのかと予想していた。
 しかし、プロポーズしてくれたときのように真剣な顔をしている。

「言っただろう、サイズが合ってないと。いずれ、日菜乃の気持ちが俺に追いついてきたら、もう一度プロポーズするから」

 安心した? と聞かれる。
 彼に、指輪を回収されたことを不満に思っているのが、バレているのを悟った。



 
 
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