警視正は彼女の心を逮捕する
「それはセクハラでは」

 周囲に同意を求めようとしてみれば。
 
 同僚達が一様に目をキラキラさせながら、うんうんと深く頷いているではないか。
 期待に満ちた目に、なんとか言葉を絞りだす。

「……みなんです」
「え?」

 全員で、ジリジリと近づいてこないでください!

「幼馴染なんです」
「その手があったかぁー!」

 歓声が上がった。
 がし!と室長に肩を掴まれる。

「藤崎さん、チラ聞きしたところではいい男だったらしいじゃないか! 捕まえて放さないようにね!」
「あ……、ははは」

 捕まえられちゃったのは、私のほうなんですが。
 乾いた笑いをもらすしかない。


 ……なんともいたたまれない空気の中を過ごし、やっと夜になった。

 職員用出口を出た瞬間、長身のシルエットを見つけた。
 私を待っていたらしく、スタスタと近づいてくる。
 歩き方でわかる、鷹士さんだ。

 彼はモデルのウオーキングとは違うんだけど、重心が丹田のあたりにあるような、しっかりとした足取りだ。
 揺るぎない、というか。
 体幹も優れていらっしゃるので、頭に果物を置いたまま歩いても落とさないんではないだろうか。
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