警視正は彼女の心を逮捕する
 私が身の置き所がなくしていると、彼はなにかを思いついたように携帯を操作し始めた。
 なにか事件でもあったのかもしれない。

 鷹士さんは、大学在学中に国家公務員試験を受かって卒業と同時に警察庁に入庁した。
 今年、警視正に昇格したそうだ。
 キャリアでも、彼の職種に昇進するまで十五年以上かかるのが普通らしいのに。
 

『異例のスピードだと同窓でも騒がれた』と、悠真さんが興奮していた。

 仕事は出来る人に集まる。鷹士さんは絶対に忙しい。
 そんな人を煩わせてしまった。

 これ以上迷惑をかけてはいけない。
 そっと出ていこうとすると、身振りで制止させられる。
 助けてくれた人を無碍にもできなくて、私はぼんやりとソファに座り直す。

 彼が通話を終わらせて十分もしないうち、鷹士さんの家のインターフォンが鳴った。

「日菜乃ちゃん、家の鍵を貸して」

 彼が私に手を伸ばしてくる。
 鷹士さんがなにをしたいのかわからなくて、私は首を傾げた。
 私を安心させるためだろう、微笑みかけてくれる。

「業者を呼んだんだ。悠真の家から君の荷物を取って来させる」

 私は目を見張った。
 鷹士さんは真剣な表情だった。

「日菜乃ちゃんはいったん、悠真から離れたほうがいい」

 そうだよね。
 わかっていても、辛い。
 思わず目を伏せる。

「……というのは建前で」

 え?
 彼の言葉に目を上げた。

「恋敵から、惚れている君を引き離したいだけ」

 ……耳慣れない言葉を言われた。
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