警視正は彼女の心を逮捕する
「それよりも。どうして、こんなに早く手配できたの?」

 私の言葉に鷹士さんは一瞬微妙な顔をしたけれど、すぐに表情を戻した。
 耳元で囁かれる。……近さと、彼の熱に焦ってしまう。

「詳しくは言えないんだが」

 重要参考人や要警護者を迅速に移動させるためのチームがあり、そこから懇意の引越し業者と手配してもらったのだという。

「そんな危ないこと」

 多分、政治家と同じくらいクリーンさを求められる警察官。
『私のために職権濫用しないで』と言わなければならないのに、それ以上は言うなとばかりに指で唇を抑えられてしまう。
 鷹士さんの、黒い宝石のような双眸に見つめられ、うまく頭が働かない。

 ふたたび命じられる。

「日菜乃ちゃん、鍵を貸して。約束する。君や悠真のプライバシーは侵害させない」

 彼の力強い瞳に、催眠術にかけられたようになる。
 言われるまま鍵を渡した。
 受け取ると鷹士さんはメモパッドを差し出しながら、次の指示をしてくる。

「悠真の家の間取り図と、日菜乃ちゃんの部屋を書いて。それと、他のどんな部屋に君の私物があるか教えてほしい」

 私は考えながら書いて、それも渡した。
 ざっと一瞥した鷹士さんはにっこりと笑う。

「立ち入り禁止の部屋に×を書いてあるな。悠真のプライベートを慮っている。さすが日菜乃ちゃん、気遣いが素晴らしいね」

 
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